「ベイリーさんのブーツ」 横山 智子
気象庁始まって以来の記録的な暑さを更新した今年の夏、短パンとTシャツ、そして首巻き タオルという出で立ちで製作するのがすっかり板に付いてしまった私でも、秋になったら 履きたいと思っている、とっておきのブーツが有る。深いワインレッドのそのショートブーツ は、十数年前にベイリーさんから頂いたものだ。 凛とした美しさのベイリーさんは、おしゃれ上手な方だった。 アーティストの手作りアクセサリーを粋に、またカラフルなスカーフを上品に纏われていた。 そんなベイリーさんも靴には苦労しておられたようだ。お仕事柄立ちっぱなしの事が多く、 かといってスニーカーのようなラフな靴を画廊で履く訳にもいかず、デザインが気に入って 買ったものの、殆ど履いていないタンスの肥やしになってしまっている靴が沢山有ると 伺った。背格好の似ていた私に、ベイリーさんは数年前イタリアで気に入って買って来たが、 ヒールが高すぎて履いてないショートブーツが有るが履いてみないかと尋ねて来られた。 勿論、おしゃれなベイリーさんのブーツ、欲しいに決まっている!とは言え靴はサイズが 合わなければどうにもならない。翌日ベイリーさんに、その靴を画廊に持ってきて頂く 事になった。 次の朝、箱から出てきたそのブーツはつやつやと輝き、程よく先が尖っていて 7センチくらいのヒールの高さがあった。おそるおそる履いてみると、皮は柔らかく、 ヒールもしっかりしているため安定感が有り、私の足にぴったりだった。 あれから長い年月が流れたが、毎年涼しくなって来るとそのブーツは私の足もとを 上品に華やかに飾ってくれる。 今年もそろそろおしゃれしてあのブーツを履き、みゆき画廊に行ってみようと思っている。 優しく厳しかったベイリーさんとそっくりの牛尾さんの笑顔と、数々のベイリーさんの 言霊達に会いに。 [ 横山智子 略歴 ] 1988年 創形美術学校版画科卒業(創形賞一席) 1989年 創形美術学校研究科版画課程修了 1989年 みゆき画廊 個展( ’91 ’93 ’01 ’04 ) 1995年 平成7年度 文化庁国内研修員 その他、個展/グループ展 多数