「ベィリーさんという友人」笠間達男

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 今、机上にあるのは、ある時、ベィリーさんが、「これ差し上げるわ」

とくれた「少女」と題する直径65ミリの銅のメダルである。

 作者は舟越保武で、1987年に普連土学園創立百周年記念に作られたものである。

ベィリーさんが舟越さんに制作を依頼したというそれは確か舟越桂の彫刻を話題

にした直後のことだった。私は普連土学園の教育に興味があったので、私と同じ

世代の戦争中の学園の話を聞き、ベィリーさんの原点を理解したような気がした。

 私は好奇心の強い美術好きで二〇歳代から銀座界隈の画廊めぐりをしている内に、

幾つかの画廊と縁ができ、その中に「みゆき画廊」があった。

ベィリーさんとの会話は「いいねー」などの簡単な

感想を述べるだけのことが多かったが、私でも手が出せる版画などを買うことも

あった。しかし、思い出してみても、ベィリーさんから購入を勧められたことは

ない。私はコレクターではなく、生活を潤す道具として美術品を購入する。

私は人付き合いはあまりしない質だが、ベィリーさんを心を許す女友達だと

思っていた。

私はベィリーさんの亡くなった年につれあいを亡くした。

ベィリーさんの追悼の最初の催しで購入した「INORI」という瀧 徹さんの

小さな彫刻が仏壇の前にある。そこで、彼女らの冥福を祈りながら般若心経を

書くのが私の日課となっている。

 

笠間達男 

1927年生まれ/元都立芸術高校校長/教育に関する著書多数